こんにちは、ママです。前回は、「俺、つしま」からねこの集会つながりで、町田尚子さんの絵本を紹介しました。今回は、ねこを別の方向から表現している竹下文子さんの絵本を2冊紹介します。
なまえのないねこ
誰にも名前をつけてもらったことのない猫が主人公です。この猫は、小さいときは「ただの『こねこ』」、大きくなってからは「ただの『ねこ』」でした。まちの猫たちはみんな名前を持っていて、主人公の猫はうらやましくなります。この子は元気のげんた、あの子は昔小さかったけれど今は大きなチビ、などと、名前を持っている猫には名前の由来もあります。名前を二つも持っている猫もいます。
「自分で好きな名前をつければいいじゃない」と言われ、主人公の猫は名前を探しに行きます。「すきな なまえ。すきな なまえ。」。でも、「どれも ちがう」。そのうち、人間に「あっちいけ!」と言われてしまいました。でも、あっちいけ!というのは名前じゃない。
名前を探してさまよっている猫。きっと、寂しいに違いありません。パパとママも、ゾーイとウーゴがやってきたときには、名前の響きはもちろん、二人へのねがいも込めて名前を選びました。ゾーイとウーゴがとっても愛おしいから、これから一番多く話しかけるのは「名前」だから、よく考えて、納得してつけました。でも、この主人公の猫はどうして自分で名前を探さなくてはいけないの?ページをめくるママの胸がキューンと苦しくなります。
この絵本は、ハッピーエンドです。表紙に描かれている主人公の猫は、お口の端をちょっと下げて、澄んだ目をして「名前、いいなあ」と言っているように見えます。でも最後に、この子は、素敵な名前だけではなく、それ以上に尊いものを得ることができました。どの子にも、幸せになる権利がある。そんな原則が裏切られることなく、お話が終わっていきます。本当に、よかった。
この本の絵は町田尚子さんが描いています。道理で、目が輝いている訳だ。名前のある子も、まだない子も、愛あふれる存在。それが、描かれている猫の表情やしぐさに表れています。表表紙と裏表紙のそれぞれ内側の猫の絵も、ある工夫がされていて、一見の価値あり。時々読みたくなる一冊です。
ねえだっこして
これは、赤ちゃんにお母さんを取られてしまった猫のお話です。これまでお母さんの膝の上は猫のものだったのに、赤ちゃんが来てからは、お母さんは昼も夜も赤ちゃんにつきっきり。いつも「ちょっと まってね」と言われてしまいます。
お母さんの膝は世界一素敵な場所なのを、猫は知っています。お母さんの膝に乗ると自分がどんなにいい気持ちになるかも知っています。「あかちゃんなんて つまらない」という気持ちと、でも、止めることのできない赤ちゃんへの興味や愛情が入り交じって、猫は葛藤します。そして猫はお母さんに訴えます。「あとででいいから ねえ おかあさん おかあさん ときどき わたしも だっこして」。
この猫は、本当は「今」お母さんに抱っこして欲しいんでしょうね。それなのに、「あとででいいから」と言ってしまうこの猫の優しさが、切なくなってしまうんです。
ゾーイも、ウーゴが来たときにはこんな気持ちだったのかしら?我が家では、先住のゾーイを優先すると決めてはいました。でも、遊びやナデナデなどでウーゴの番になると、ゾーイは自分の番が終わったのに、うらやましそうな顔をしてこちらをじっと見ていたのを思い出します。それまではママのことを全面的に信頼して天真爛漫に甘えてきたゾーイですが、ゾーイは、「全部あたしの時間だったのに」と思っていたのかもしれません。
そのうちママとウーゴが遊ぼうとすると、ふいっとその場を立ち去ってしまうようになりました。ママとの距離も大きくなってしまったように感じました。控えめな、でも本当は甘えん坊のゾーイは、ママとウーゴが遊んでいるところを見たくなかったのだと思います。きっと、自分が傷つかないようにしていたのでしょう。ゾーイにそんな辛い思いをさせたくなかったので、ママは、ウーゴをかわいがるのはゾーイの見えないところや眠っているときにしたこともありました。
ゾーイが寝ているときには、ごめんねの代わりにずっとなでてあげました。ゾーイは気付いていたと思いますが、そのまま寝ていました。そんな姿を見ると、やっぱり罪悪感は出てきてしまいます。「ねえ抱っこして」を読んだとき、この猫とゾーイが重なって、とっても切なく、身につまされました。
でも、このお話には救いがあります。それは、この猫が赤ちゃんに愛情を持っていることです。自分の方が赤ちゃんよりも、こんなことやあんなことができると比べますが、ふと「あかちゃんって・・・・・・ あまい においがする」と立ち止まります。そして、お母さんのお膝を貸してあげると思うようになるのですが、猫が葛藤を通して赤ちゃんを受け入れ、成長した瞬間なんだと思います。
もちろん、本当にそう思えるまでにはもうしばらく時間がかかると思いますが、「今」でなく「あとででいいから」と思えるようになって、一つのステップを乗り越えたといえるのでしょう。ゾーイも、一瞬でウーゴを受け入れた訳ではありません。今も完全に受け入れた訳ではないと思います。でも、こうやって、一つ一つステップを乗り越えていくんだと思います。
時間とともに環境や気持ちも変わる。赤ちゃんの成長とともに、この猫の気持ちもお母さんとの関係性、赤ちゃんとの関係性も変わってくるのだと思います。そういう「未来」に希望を持てる一冊だと思います。
書籍情報
なまえのないねこ 小峰書店 2019年
ねえだっこして 金の星社 2004年
追加情報(2021.12.08)
竹下文子さんは、私の大好きな絵本作家、鈴木まもるさんの奥様だそうです。鈴木まもるさんは、鳥の巣研究家としても知られていて、鳥の巣の絵本のほか育児絵本も出版されています。詳細な鳥の巣の絵は、圧巻としか言えません。息子さんの育児の経験を元にした絵本も、愛にあふれていて、読むたびに涙が出てきます。お二人がご夫婦だったとは。感動です。「KUMON ミーテ」による竹下さんと鈴木さんご夫妻のインタビュー記事はこちら。