<治せない病気>への挑戦~「猫が30歳まで生きる日」の紹介

こんにちは、ママです。今日、嬉しいことがありました。朝いつものようにゾーイとウーゴと一緒に遊んだのですが、ママはどうやらゾーイのお気に入りのおネズのおもちゃを回収し忘れたようなのです。数時間後、いつもよりも意味ありげなゾーイの鳴き声が居間の外から聞こえてきて、どうしたんだろう?とママは立ち上がりました。ウーゴも居間のドアに駆け寄ります。

もしかして、怪我でもしたのかしら?と心配になってドアを開けたところ、ゾーイが何かをポロッと口から落としたんです。見ると、ゾーイのお気に入りのおもちゃでした。ゾーイのきれいなミケの毛と同じ色の、小さなおネズのおもちゃ。

「ママー、これ落ちてたよー」と拾ってきてくれたのかしら?ゾーイが賢い子だとは知っていましたが、落とし物を拾ってきてくれるなんて!この子、天才かしら?ママは感動しました。でも、遊びたいのかとも思って、一度おもちゃを投げてあげたのですが、ピョンと跳び越えて、こちらを振り向いていました。もしかしたら、ママのことを「狩りができない子」だと思っていて、「これで練習したら?」とママに獲物を持ってきてくれたのかもしれません。どちらにしても、ママは嬉しいよ。

今回は「猫が30歳まで生きる日」(時事通信社、2021年)の紹介です。猫を飼っている方はご存じかもしれませんが、猫の宿命とも言える腎臓病の治療薬を開発している研究者、宮崎徹さんの著書です。先日、「新型コロナの影響による資金難で開発がストップしたけれども、所属している東京大学にたくさん念念寄付が集まり、さらには製薬会社のサポートも得られるようになって、開発が再度進み出した」というニュースもありましたね。

腎臓は、体のいろいろな臓器でできた老廃物を含んだ血液をきれいにする役割を持っていて、主にネフロンと呼ばれるユニットで必要な物質を血中から再吸収し、不要な老廃物を含んだ尿を体外に排出するはたらきをしています。

たくさんのネフロンが壊れてしまうと、老廃物を尿として出すことができなくなってしまうのですが、悪くなった腎臓を治す根本的な方法はなく、点滴をして自然に改善するのを待つか、改善することなく亡くなってしまうかのどちらかなのだそうです。しかも、何が生死を分けるのかも解明されていなかったということです。 

宮崎さんは、体の中の「ゴミ掃除」をしてくれるタンパク質を発見し、AIMと名付けました。AIMとは、「マクロファージを死ににくくする・元気にする」という意味の英語の頭文字を取ったものだそうです。マクロファージとは、体内に侵入した細菌や異物を食べて、病気にならないように守る免疫細胞のことです。宮崎さんは、研究の過程で、猫にはAIMが存在しないのではないか、と考えていたそうです。

ところが、宮崎さんは、講演会で出会った獣医さんからの「ネコにはAIMは存在しないのですか」という、想定していなかった質問を通して、猫には腎臓病が大変多く、ほとんどの猫が腎臓病で亡くなるのだと知って驚きます。そこから、猫を対象とした腎臓病の治療方法の研究が重きを置いていきます。

この本の大半を占める宮崎先生のAIM研究のくだりは、とてもおもしろいです。臨床医としてスタートした宮崎さんが基礎医学へ転向し、「専門性と決別」し、広い視点からAIMを使った治療薬の開発を進める話は、自分がこれまで身につけてきた知見や見つけた問題へのアプローチの確かさに対する自信を感じます。獣医やスポンサー企業など異業種の専門家と協力しながら研究を進め、新型コロナのような大きな障壁すらも、智恵をはたらかせて乗り越えようとする話は、目的に向かって邁進する人のなみなみならぬ熱意と強さを感じます。すべてを通して、「猫の救世主」としての頼もしさを実感するんです。

この本はまた、研究を志している若い人にもぜひ読んで欲しいと思います。読んでいると、「研究にはもっと資金を投入すべきだよな」とも、素人ながらに思ってしまいます。これまでノーベル賞を受賞した日本人研究者にも、若い頃の研究が認められて受賞した人が多くいます。また、その時期に研究費を潤沢に使うことができた人も多くいます。

「基礎研究に重点を置くべきだ」「若い研究者が活躍できる環境を作るべきだ」「短期間で成果が出ない研究も大切にするべきだ」と警鐘を鳴らすノーベル賞受賞者がいるというインターネットの記事と、宮崎さんの半生が重なります。やはり、豊かな研究環境で、科学的な疑問や問題を思うまま追究できるということは、研究者一人を育てるだけではなく、社会を救うことにもなると思うんです。

ママがもう一つ納得したことは、宮崎さんが「答えは体の中にあった!」と気付いたくだりです。それまでは、ゴミ(老廃物)掃除の新しい方法ばかりを考えていたけれど、「もともと体に備わっている掃除のメカニズムを見つければいいのだ」とアプローチを変えたところは、日本人の自然観に無理なくフィットする気がします。

AIMは元々体に備わっているものなので、猫の体は自然に受け入れることができ、副作用もありません。また、薬が好きではない猫のために、AIMを入れたご飯やサプリを開発するなど、猫に負担のないように摂取できる方法も考えているそうです。

宮崎さんがアプローチを変えるに至ったのは、異業種の人との会話からだったそうです。自然に、素直に、また柔軟に考えることができる宮崎さんだったからこそ、この本にあるような成果が得られたのではないかと思います。腎臓病の猫ちゃんが、この治験を通してどんな劇的な改善を見たか、宮崎さんと周囲の人たちの興奮と会心の結果は、ただただ感動します。AIMの実用化を目指すうえで、とても大きな励みになったことと思います

きっと、多くの猫の飼い主さんが、「うちの子にもこの治療薬を使いたい」「うちの子が腎臓病になる頃には使えるようになっているといいな」と思っている方も多いのではないでしょうか。ママも、ゾーイやウーゴに間に合ってほしいし、子どもの頃飼っていた、腎臓病で死んでしまったシャム猫ちゃんの時にもこんな薬があったらよかったのにな、と思います。本当に多くの人の希望を背負っていると思います。

この本が上梓されたのは、今年(2021年)8月のこと。ママが手にした本は、すでに第3版(同年9月出版)となっています。きっと、たくさんの猫の飼い主さんや猫好きさんが手に取ってくれたのでしょう。治療薬が完成し、腎臓病が<治せる病気>になるまで、もう間もなくだそうです。たくさんの猫ちゃんがこの薬で救われ、幸せな毎日を送れる日を、ママは心待ちにしています。

書籍情報

猫が30歳まで生きる日 宮崎徹 時事通信社 2021年