こんにちは、ママです。今日もゾーイとウーゴはママの両脇の椅子でまどろみながら、ママのお仕事を応援してくれています。お仕事の手を休めて二人を見ていると、とっても幸せな気持ちになります。二人の寝顔が安らかで、ママだけでなく二人も幸せを感じてくれているのが分かるからだと思います。この幸せがずっと続きますように。ママはどんな一瞬も逃さないよう、この二つの寝顔を心におさめます。
でも、よく見ると、二人とも時々ピクピクしてる。もしかして、ゾーイとウーゴはピーターの夢でも見ているのかしら?だとしたら、安らかな寝顔の内側で、猫の仕草や行儀作法を忘れてしまった「猫」のピーターに会って慌てているかもしれません。「あれれ?この猫の子、何か違う・・・。」そして、戸惑いながらも、夢の中でジェニィと一緒に猫のお作法を教えてあげているのかもしれません。
ピーターとは、ポール・ギャリコの小説「ジェニィ」(新潮社、1979年)に出てくる主人公で、猫が好きな男の子。猫の姿になってしまったピーターは、ジェニィという雌猫と出会い、いろいろな経験を通して成長していきます。
そんな訳で、今回は「ジェニィ」の紹介です。ポール・ギャリコは、「ハリスおばさんパリへ行く」や「三回生まれ変わったタマシーナ」、「ポセイドン・アドベンチャー」の作者です。有名作を多く手がけているので、「ああ、そうか」と思う方もいるのではないでしょうか。「ジェニィ」は、猫と猫になった子どもが愛情を通わせる「大人のための童話」です。
ロンドンのうまや町に住むピーターは、八歳の男の子。トラックにはねられ、病院に運ばれます。猫が好きなピーターは、公園にいた子猫をなでようと思い、車道に飛び出してしまったのです。ベッドに横たわりながらも、ピーターは猫のことを考えます。自分がどんなに猫を飼いたいか。子猫がどんなにかわいいか。でも、隠れて飼っていた猫は、スコットランド人のばあやに追い払われて悲しい思いをした・・・。
と、ピーターは、ばあやの眼鏡に映っている自分の姿がどこか変なのに気付きます。トビ色のカールした髪の毛にリンゴのようなほおだったはずなのに、毛皮は短く、まっすぐで純白になってしまったようなのです。なんでぼくは毛と言わないで「毛皮」なんて言うんだろう?きっとずっと猫を見ていたから、僕は猫に変わっていくのかしら?ピーターは混乱します。
そのうち、顔の他の部分や体も猫に変わっているのに気付きます。恐ろしくなってきたピーターは目を閉じます。でも、目を開けると、自分の手足が純白で、毛皮をかぶり、裏側に柔らかいピンク色がかった足の裏がついていて、爪の形も変わっているのを見ます。体は、お母さんが冬の間におしゃれして外出するときにいつも両手を差し込んでいく白テンのマフそっくりです。自分の体を一つ一つ確認しているうち、ばあやがピーターに大声で叫びました。
「こら!シッ!出て行け!」。ピーターはばあやに説明しようとしますが、ばあやの剣幕はすさまじく、ピーターはとうとう捕まえられて、外に捨てられてしまいます。そう、ピーターは本当に猫になってしまったのです。
猫となったピーターは、町をさまよい、人間に追い払われます。やっとたどり着いた先では、大きな黄色い雄猫にけんかを仕掛けられ、大けがをしてしまいます。ピーターは、体は猫で猫の言葉も分かるけれど、猫の行儀作法を知らなかったため、けんかを仕掛けられたのです。
瀕死の状態のピーターを助けてくれたのは、とても痩せているけれど、実にかわいらしくて瞳が魅力的な雌猫でした。名前は「ジェニィ・ボウルドリン」。ジェニィのおかげで命拾いをしたピーターは、それまで通り、人間の男の子らしく振る舞います。人間嫌いのジェニィは、そんなピーターを警戒します。でもやがて、そんなピーターもジェニィに受け入れられ、猫の行儀作法を教えてもらうことになります。
疑いが起きたら身づくろいをすること、出口で必ず立ち止まること、人間からごはんをもらう(でも人間の思うとおりにはならない)方法・・・。たくさんのことを教えてもらっているうち、ジェニィとピーターの間には絆が生まれます。
ジェニィは、かつては裕福な家の飼い猫でした。十分にお世話され、十歳のお嬢さんのバフにかわいがられ、幸せな生活を送っていたけれど、引っ越しの時に捨てられてしまったという、悲しい過去を持ちます。実はアクシデントだったのですが、猫にはそれが分かりません。ジェニィの悲しみがストレートに伝わってきて、読んでいて切なくなります。この切なさが自分のものになったような気がして、ゾーイとウーゴには絶対そんな思いをさせない、と思うのです。
この物語では、猫と人間の愛がいろいろな形で描かれています。ジェニィを愛する者たち、人間に飼われて何不自由ない生活を送る猫、愛してくれる者への贖罪の気持ち、愛する者との決別、愛する者を守り抜くための戦い。孤独、冒険、離別、死、邂逅が、ジェニィとピーターの会話を通して絡み合っていき、大団円を迎えます。
昏睡状態から覚めたピーターは、人間の男の子に戻っていました。「ピーター!あたしのダーリング!あたしを置いていかないで」と傍らですすり泣く「母」とジェニィの最後の声が重なります。ぼくは全然ピーターではなくて猫なのに、どうしてぼくだと分かったのだろう?ジェニィ・ボウルドリンはどこへ行ったのだろう?と、ジェニーでなければダメなのだと、ピーターは再び混乱します。
ママは、この本を読む方には、猫のしぐさや行儀作法の描写を純粋に楽しんでほしいと思っています。また、ジェニィとピーターをはじめ、登場人物が見せる無私の愛も感じて欲しいと思っています。そして、飼っている猫ちゃんとのかけがえのない毎日を大切にして欲しいと思っています。愛する者への愛情は、時に反目するときもあります。「ジェニィ」は、愛とは何かを考えさせられる物語です。
日が傾いたママのお仕事部屋。ゾーイとウーゴもそろそろ起きる頃です。起きたらピーターみたいに猫のお作法を忘れてしまい、ママに人間の言葉で話しかけるのかしら?それとも、いつもと変わりなく、「ママー、ご飯まだー?」と甘えてくるのでしょうか?今日はもう少し二人の寝顔を見ていたい。だから、しばらくこのまま部屋にいようと思います。
書籍情報
ジェニィ ポール・ギャリコ 新潮社 1979年
2022年1月16日追記
ポール・ギャリコの「猫語のノート」は、パパが紹介記事を書いてくれました。ぜひ読んでね!