こんにちは、ママです。ママがお仕事部屋から居間に来たら、ウーゴがハンモックの中で目を覚ましていました。いつもはお昼寝の時間なのですが、なんか嬉しい♡お仕事に戻るのをやめて、少し遊びました。こうした一息つく時間が、人生ではとっても大切な気がします。
今回は、映画「レンタネコ」の紹介です。監督の荻上直子さんは、ママの好きな映画監督さんです。「レンタネコ」の他にも「めがね」「かもめ食堂」「トイレット」などの映画を撮っています。猫や離島、カフェをテーマに、ゆったりとした時間の流れを作り出すのがとても上手です。
といっても、猫や離島はあくまでもたとえで、何気ない日常を描きながら、大切なものは何なのかを問いかける映画を作り上げます。忙しい毎日を送っていると、一見、つかみどころのない映画なのかと思ってしまいますが、映画のペースとこちらのペースを合わせると、荻上さんが伝えたいことがはっきりと見えてきて、とてもおもしろい映画です。
忙しいとついせかせかしてしまうママですが、荻上作品は、「ゆっくりやっても大切なものは手に入るよ」といつも語りかけてくれます。荻上作品を見て一度生活(気持ち)のペースをリセットすると、その後はとても気持ちが楽になるんです。荻上作品によく登場するのは、小林聡美さん、光石研さん、もたいまさこさん、市川実日子さんです。実力派揃いです。こうした俳優さんたちが演じる荻上作品は、ママの「心のメンテ」がとても上手。
さて、物語は猫がたくさんいる大きな平屋の一軒家から始まります。雑然とした広い部屋と大きな仏壇、たくさんの猫が、くつろいでいます。その中で、市川実日子さん演じる主人公は考えます。目標は紙に書いて、目に見えるところに貼っておくといい。なるほど。主人公は、「今年こそ結婚するぞ」目標を紙に書いて部屋に張ります。これ大事ですよね。一人より、二人がいい。猫とは違った癒やしを、パートナーは与えてくれます。
主人公の職業(本業)は、「レンタネコ業」。猫をさみしい人にレンタルするんです。猫を5匹ほど、リヤカーに猫を載せ、歩きます。「レンタ~ネコ、ネコネコ」。「さみしい人に~、猫、貸します」。拡声器を通して、竿竹やさんのように多摩川べりに住んでいる皆様にお知らせします。すれ違う親子連れとあいさつ、小学生には「猫ババア」と呼ばれ、ちょっとしたライバル関係。
おばあさんに声をかけられます。「猫、貸してもらえませんか?」。来た、お客さんだ。でも、借りてどうするんだろう?主人公は言います。「どの子もみんないい猫、そもそも悪い猫なんかいないんですけどね。」そうそう、悪い猫なんか、この地球上にいません。
借りられた猫が快適に過ごすことが出来るよう、レンタルにあたって、審査があります。悲しいけれど、小さな動物をいじめて楽しむヤツがいるので。猫が住みやすい家か、確認するんです。猫を借りたいおばあさんは、夫と死に別れ、夫との思い出のペットの猫も、数年前に死んでしまった人でした。さみしさを埋められないけれど、年のため、猫をレンタルするのはちょうどいいのかもしれません。主人公は、ゼリーをごちそうになりながら、話を聞いていきます。
でも、借りた猫のトイレやごはん、おもちゃはどうするんだろう?実際の問題はあるけれど、ママはまずは、作品の世界観を楽しみます。レンタネコを借りるには、ちゃんと契約書があります。コピー用紙にマジックで書かれているひな形。なになに?契約書は、借主の名前と猫の名前、期間だけなんだ。おっと。ずいぶんとイージーだな。
主人公に事情を話したおばあさんは、契約書の期間の欄には「今から他界するまで」と書きます。借用中のサポートを主人公がちゃんとしてくれると知って、おばあさんは安心します。前金として、千円。どういうシステムなんでしょう?千円って、安すぎません?
「でも、大丈夫なの?生活、とか・・・」。「困っているように見えます?」。変わったお仕事だから、心配されてしまいました。
おばあさんに猫をレンタルした後、電話が入ります。おばあさんが施設に入所し、家を売ることになったようです。おばあさんの息子は、仕事の合間に来たのでしょうか、電話で家を売る話をしています。家が思ったより安いのが納得いかないのか、忙しいのにおばあさんの用事を済まさなければならないのがいまいましいのか、ずいぶんと感じの悪い息子です。
そんな中、主人公は、レンタルした猫を見て一言、「かわいがってもらったんだね」。猫の様子を見ると分かるのでしょうか?きっとそう。猫との絆が固いから、何でも分かっちゃうんだと思います。
息子が素っ頓狂な声を上げます。行ってみると、ゼリーが冷蔵庫にたくさんあったのです。息子は、「何だよ、これ」と煙たい様子。主人公は、一つ頂いて、そそくさと帰ります。家についてゼリーを食べながらまったりする主人公。息子は・・・。場面が変わって電気の消えたおばあさんの家の床にへたり込んでいるのが写ります。手には、ゼリー。
ママは、息子が煙たく思ったのは、きっと、自分の今のペースを否応なく止められたからだと思います。息子はゼリーをきっかけに母に愛された過去に向き合わされて、でも時は未来にしか進まないという現実を突きつけられて、やるせなく抗いたい気持ちになっていたのではないかと思います。仕事に追われて自分の心の内面を見ようともしてこなかったのかもしれません。でも、一度立ち止まることが出来て、気づくことが出来てよかったじゃない、とママは思うんです。
カメラは、そんな息子をサラッと映して、話を先に進めます。解決することなく、話は進みます。無常、それが世の中なんだと、この映画は言っているのでしょう。だから、こうしてゆっくり内省する時間は大切なんです。
主人公は、猫をレンタルする相手すべてに、生活を心配されています。何だかよく分からないお仕事、誰でも心配しますよね。「でも、大丈夫なの?生活とか・・・」。「困っているように見えます?」。この同じやりとりを、いろんな背景、いろんな考え方の借主とします。
一連の、いつも同じ手続き。淡々とふるまう主人公が鏡になって、借主が自分を見つめる機会が生まれます。もちろん、猫の存在も。猫も、愛情を与える対象として、心の中の寂しい穴を猫が埋めてくれ、借主が内省するための起爆剤になっています。そんな主人公を通して、ママも内省する機会を得ます。
レンタネコのお客さんは他にも、娘を持て余す単身赴任の父だったり、何かとランク付けをしてしまうレンタカー屋さんのお姉さん(これは職業病?)だったりします。こうした人たちが、猫を借りて、それぞれの新たな出発点に立ちます。猫の力を借りて、それぞれが再び歩き出します。何もしないのに、猫って、すごい。
でも、この映画、すべてのシーンがいたって淡々と描かれているんです。何気ない日常で、人は何に気付き、何を選ぶのか。それが、淡々としてはいるけれど、「揺るがないもの」として、力強く存在しています。忙しいけれど、繰り返される毎日にちょっと飽きた人は、この映画の世界にどっぷりとつかってみてはいかが?大切なものが手に入るかも。
ウーゴはまだハンモックでゆっくりしています。さあ、もう一度遊ぼう。一度立ち止まったら、大切なものが見えるから。
映画情報
レンタネコ 荻上直子監督 スールキートス 2012年