ボロボロの企業戦士と子猫の物語~「ネコナデ」の紹介

こんにちは、ママです。今回は、映画「ネコナデ」の紹介です。主演の大杉漣さんは、言わずと知れた、名俳優。北野武監督の作品での演技はあまりに有名なほか、コミカルな演技でも何でもできる、カメレオン俳優さんでしたね。大杉さんの早すぎる死を悼む声はとても多く、ママももっと多くの作品で、もっといろいろな顔を見せていただきたかったです。

ところで「ネコナデ」。大杉さんの作品にしては珍しい部類の映画ではないでしょうか。大杉さん演じる人事部長は、その名も鬼塚太郎。名は体を表すと言いますが、その仕事に対する姿勢は厳格そのもの。社長から5か年のリストラ計画を任され、社員をズバッズバッと解雇していきます。もう少しで計画も完了というところです。

リストラ面談をした社員に、退職セットを渡します。「そんなもので僕のすべてが評価できるって言いきれるんですか?!」と怒る社員にただ一言、「できるけど」。納得できない社員に弁護士や労働基準局を紹介しようとします。きっと、訴えられても怖くないくらい、準備をしているのでしょう。

家路につく途中で、公園で一息つく鬼塚。人の一生を左右するこの仕事、簡単なわけがありません。一人で自分を見つめる時間が必要なのでしょう。ふと目をやると、茂みに隠れていた猫と戯れるカップルが目に入ります。ほっとけばいいのに、カップルに近寄り、「飼えないならちょっかいかけるんじゃない!」、と怒り出します。いい加減に出来ない性格が、仕事でもこういうところでもストレスを与えるんでしょう。

カップルの男性に「責任もって飼えます」と反撃されます。「あなたも一匹くらい飼ったらどうですか」、と捨て台詞を吐いて、カップルは、子猫を一匹抱きかかえて立ち去ります。鬼塚も逡巡しますが、そのまま立ち去ります。茂みの陰の箱の中には、あと三匹残っている。どうなっちゃうんだろう?

家での食事中、まだ小さい娘が「お願い」と切り出します。「猫を飼い・・・」と聞いた途端、鬼塚は「責任が持てるのか」、とまくし立てます。でも、聞いてあげて。娘さん、もっと何か言いたそうですよ。結局、娘がほしかったのは、「猫を飼うゲーム」でした。

ほらほら、先走っちゃうから。話は最後まで聞きましょう。ゲームなら、と許可が出ました。猫を飼うゲームって、昔はやった「たまごっち」みたいなものかしら?ママはそちらも気になります。

時は折しも第二新卒の入社時期。新人研修が二週間続きます。早速鬼塚は、第二新卒を「バツイチ」と呼び(ひどいですね~)、雇用の目的を話します。いわく、第二新卒は新卒のように「身の丈に合わない夢」をもっていない、そういうところを買っているんだそう。なるほど。まあ、そういう面もあるかもしれませんが、あまり新入社員をいじめて会社が嫌になっちゃわないように。

ある日、鬼塚はいつものように公園で一息。この前の茂みに猫はいるかな?いない、と思った瞬間、かわいい鳴き声が。茶色と白の耳折れ猫でした。ムクムクで、かわいい♡あ、つい抱っこしちゃった。そうだよね~、かわいいもんね~。でも、「飼えないのなら、あまり構いすぎてはいかん」、という以前の言葉が、今度は自分に向かいます。責任をもって飼えるのでしょうか?とうとう家に連れて帰ってしまいました。

家では、早速娘が買ってもらった「猫を飼うゲーム」をやっています。へぇ~、テレビに写して、部屋のどこからでも見れるようになってるんだ。おなかがすいたサインでごはんをあげるのは、「たまごっち」と一緒。ふと見ると、部屋に隠したはずの猫が廊下に出てきてしまっています。ドキーン!!でも、家族に打ち明けるチャンスだよ。娘さんも、きっと喜んでくれるよ。

鬼塚は、「ほどほどにしとけよ」と声をかけ、トイレに猫を抱いて入り、やっぱり元の場所に戻そうと決めます。でも、カワイイ。猫を抱きしめ、悩みます。

結局、新人研修用の寮として借り上げたアパートの空いていた部屋に連れて行き、そこで飼うことにしました。暗がりで猫にごはんをあげ、子猫「トラ」の成長について調べる鬼塚。そういうのって、楽しい時だよね。本当にひとりでやっちゃっていいの?家族、喜ぶんじゃない?

ひょんなことからトラがいなくなり、憔悴する鬼塚、携帯には猫のストラップ。あきらめようとしていた矢先、トラを見つけました。よかった~。ヘナヘナと座り込み、トラを抱きしめます。お風呂に入れ、「は~いきれいになった~」。なんか、仕事の時とずいぶん声が違うなあ(笑)。この一連のシーンは、猫が出てくる映画の「お約束」ですね。

自社商品の見守りカメラを猫のために使ったり、娘から一匹だと「さみしいメーター」がどんどん上がって早く死んじゃう(ゲームで)と聞いて、トラのためにもう一匹猫を飼おうとしたり、仕事の傍ら、トラのために奔走します。でも、部屋に置きっぱなしでもう一匹飼うって、そもそもお世話のしかたが違うんだよ~。ちゃんと自分でかわいがってあげないと。

ゾーイが赤ちゃんだった頃、ママはお仕事で外出が多く、さみしい思いをさせてしまった時期がありました。あるとき、ゾーイがパパとママのベッドの上にお座りしていました。そばに座って「ここにおいで」と隣をポンポンとたたいたら、ゾーイが「いいの?」というような顔をして、そばに来たことがありました。しばらく頭やあごを撫でてあげて、ゾーイがゴロゴロと喉を鳴らすのを聞いていたら、こんなに小さい子に我慢させて、悪いママだなあ、と申し訳ない気持ちになりました。

この映画のトラちゃんも、暗いお部屋で一人で頑張っている子。見守りカメラを通して見える孤独に遊ぶ姿がその時のゾーイと重なって、切なくなりました。

新人研修とリストラ計画、そしてトラが、三本の糸のように絡み合いながら、映画は進んでいきます。鬼塚は、本当は「普通の人」。眉一つ動かさずにリストラできる人でもなければ、平気で新人いじめをしているわけでもありません。温情で、会社都合の退職にしてあげたこともあります。でも、これまで「仕事」として厳格に割り切ってきたことが、トラが現れたことで、バランスを崩し始めます。

昨今の日本は、あまりいい風は吹いていないように感じます。企業に勤めている人は、もしかしたら鬼塚と同じように無理を強いられているのかもしれません。そんな中で自分を心豊かに保つことを、どのようにしているんだろう?鬼塚のように、ボロボロになっていくしかないのでしょうか。帰り道の公園で一息つくのを習慣にできていたり(これさえも難しい人もいると思います)、トラと出会えたりした鬼塚は、むしろ幸せな方なのかもしれません。

忙しい仕事の傍らで常に自分を保ち、自分にとって何がいい選択なのかを見極めるって、本当に難しいと思います。そしてそういう「企業戦士」たちに今の日本を支えてもらっていることを考えると、感謝しなければいけないな、と、心から思います。鬼塚は、トラを通して自分を見つめ、ある大きな決断をします。

借りていた部屋を引き払い、家に猫を連れて帰る鬼塚。家の前でトラをキャリーケースから出し、抱っこして家に入ります。それは、きっと、鬼塚の決意の表れ。家族に何と言うのでしょうか。

ちなみに、大杉さん、撮影終了後にトラちゃんを本当に引き取ったとか。きっと映画のようにいい相棒だったのでしょう。

映画情報

ネコナデ 大森美香監督 AMGエンタテインメント 2008年

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