こんにちは、ママです。これまでのブログでママは時々絵本を紹介してきました。どうして絵本なの?と思っていた人もいるかもしれません。でも、絵本はママにいろいろな感情に気づかせてくれ、大切なものを教えてくれます。ママにとっては、絵本は猫や家族と同じくらい大切なんです。どうして大切かって?それは、この先を読んでいただければわかってもらえると思います。
今回は、絵本「ことらちゃんの冒険」の紹介です。児童文学作家の石井桃子さんがお話を書いています。石井さんと言えば、「ノンちゃん雲に乗る」や訳書の「プー横丁にたった家」、トム・ソーヤーの冒険」、「ちいさいおうち」、「うさこちゃんシリーズ」、「ピーターラビットシリーズ」など、誰でも知っている有名な本・絵本をたくさん手がけています。子ども時代に一冊は出会っているのではないでしょうか。
「ことらちゃんの冒険」は、昭和33年に雑誌「婦人之友」に連載されたお話を加筆・再構成させ、昭和46年に婦人之友社から出版されたものが始まりだそうです。元気いっぱい、わんぱくでちょっと向う見ずなところもある主人公の子猫「ことらちゃん」が、大きな冒険を重ねる8話完結の絵本です。大きな冒険、と言っても、実際に大きな冒険もありますが、子どもなりに大きな体験も含まれていて、ことらちゃんがたくましく成長していくさまをみずみずしい感性で描いています。
ことらちゃんは、虎に似ているのが自慢です。大きくなったら虎になれると思っています。虎になってから困らないよう、鏡を見て虎のまねをしています。
でも、お母さん(猫)に聞いても「あなたは いくつになっても ねこよ。」とたしなめられてしまいます。でも、ことらちゃんは納得しません。「こんなに にているのに とらになれないわけがない。」確かに、見た目が似ているから、ちょっと頑張れば虎になれそうですよね。「なせばなる、なさねばならぬ、何事も」、と言いますから。ことらちゃんは、立派な虎になれるよう、バーベルを使ってトレーニングに励みます。トレーニングしないで急に虎になってしまったら、困りますもんね。
ある日、おうちのぼうや(人間)が遠足で動物園に行って虎を見てきたと聞かされます。向う見ずなことらちゃんは、あることを決心します・・・。
またあるときは、お母さんに体をなめてもらいながらお昼寝し、なんとジャングルの夢を見ていました。子どもの夢は大きいのが一番。猫にはジャングルがよく似合う。そこへ近所の犬がやってきて、からかいます。びっくりしたことらちゃんは、木の上に掛けあがってしまいます。お母さんは心配します。降りられるのかしら?
ことらちゃんは怖くなんかありません。犬なんかこわくない、と木から飛び降ります。落ちたところは犬の背中の上。犬がびっくりして駆け回っているところに、おうちのぼうやが学校から帰ってきます。犬は、ぼうやに取り繕います。でも、わんぱくなことらちゃんは犬の背中にしがみついて離れません。犬は犬らしく、猫は猫らしく(?)、情緒豊かに描かれています。
この絵本を読んでいると、5歳くらいの男の子の姿が目に浮かびます。ママの小さいころは、近所の男の子たちが本気でウルトラマンごっこをしていました。風呂敷マントさえあれば、自分はなんだってできる、と思う年齢なんですよね。ママとお幼馴染の女の子は、そんな男の子たちに助け出されたり、敵にされたりしていました。
おまけに男の子はとても活動的。お母さん方の苦労がしのばれます。きっと、ことらちゃんとお母さん猫のような会話が毎日繰り返されているのでしょう。ママとゾーイやウーゴが遊ぶ時も、おんなじ。二人とも大人になって活動量が落ちてきたとはいえ、遊びの時間は超本気。ママの方が先に疲れてしまいます。瞬間瞬間で見ると、こうした日が果てしなく続くように感じられ、絶望すら感じるかもしれませんが、子どもは少しずつだけれど毎日確実に成長しています。だから、ぜひ、そんな日々を楽しんで、ちょっとの成長でも見逃さず、喜びを感じてもらいたいと思います。
ことらちゃんにもちゃんと、成長の日が来ます。タイガちゃんとミーちゃんという弟と妹ができたのです。お母さんを取られるなどという心配もせず、ことらちゃんは天真爛漫に二人と遊びます。でも、ボール遊びなど自分の目線での遊びは、生まれたばかりで「ねずみ」みたいな二人にはまだ無理。二人を泣かせてしまいます。ことらちゃんはお母さんにおこられるのが怖くて、隠れてしまいます。こうして、弟や妹に対する加減を学び取っていくんですね。
でも、ことらちゃんに名誉挽回の時が訪れます。弟のタイガちゃんが縁の下に入ってしまい、出てこられなくなったのです。お母さんは体が大きくて入れないので、ことらちゃんが代わりにすきまへ体を滑らせ、タイガちゃんを助け出します。お母さんもぼうやもことらちゃんをほめました。こうした成功体験が、子供の成長の原動力になるのでしょう。
成長を見させられると、嬉しい反面、「あの甘えん坊だったあの子が・・・」などと寂しい思いをするお母さんも多いのではないでしょうか。保育園や幼稚園のお遊戯会で、目を涙でしばたたかせながら子どもの姿をスマホで撮っているお母さんをよく見ます。とても愛情あふれるシーンで、見ているママも涙がこぼれそうになります。決して戻ることのない時間の流れの中で、どんな一瞬も見過ごしたくない、と思う美しい心が、涙となるのでしょう。そんなお母さん方の気持ちを、石井桃子さんは温かく包み込み、ことらちゃんと重ねあわせていきます。
けがをして手に包帯を巻き首にカラーをつけたことらちゃんを、タイガちゃんとミーちゃんがうらやましくなってしまうシーンは、つい笑ってしまいます。子どもって、特別感がほしいんですよね。いつもと違う、とか、自分だけ、とか。自分は何にもないのに、きょうだいの包帯がうらやましくて、ちょっとだけ巻いてもらった記憶が、ママにもあります。本当のけがではないので、ほんの数周巻いてもらっただけでしたが、包帯の特別感、ママのママに大切にされたという実感がうれしくて、ずっと巻いていました。
ママのママが一緒にこの絵本を読んでいたら、絶対に、ママの方を見てニヤッと笑って、「あなたも昔こんな風だったよね」というと思います。大人となった今では恥ずかしく、照れ隠しをするのも大人げないと思うので、実際にその場面になったらどう反応するかはわかりませんが、でもきっと、心の奥底で、忘れていた記憶が愛情とともにこみあげて、泣きたくなってしまうかもしれません。
ママが絵本を好きな理由の一つは、ここにあります。これまでいくつか絵本の紹介をしてきましたが、絵本は、鎧を着ていない生のままの気持ちを直接刺激します。普段はそれを感じるのが怖くて、心に鎧を着せたり、生のままの気持ちに気づかないふりをしたりします。「大人になる」って、そういうこともあると思います。でも、本当は、そういう気持ちも心の王から取り出してきて、掌に載せてなでてあげることって、人として心豊かに生きるためには必要なことなのだと思います。そして、そういうことができる人が、本当の大人なのかな、とも思います。だから、大人にとっても、絵本は大切です。
ママはそういったことをまだあまり上手にできないけれど、絵本が好きな理由は、ストーリーに乗せてそれを疑似体験できるからだと思います。現実世界のいざこざを描くこともあるけれど、絵本は普通、それを極力排除して本質的なもの、大切なものを子供たちに投げかけます。そのあたり、「珠玉の猫作品アンソロジー~「作家と猫」の紹介」の記事で書いた「猫の無垢なところが、現世で傷ついた自分を癒してくれる」から猫は素晴らしい、ということと似ているのかもしれません。
生涯をかけて絵本や児童文学作品を世に出し続けてきた石井桃子さんは、きっと、本当に強い人なのだと思います。強い人は、優しく、温かい。それが、作品と見事に同化している気がします。これからも、猫が出ているママの好きな絵本を紹介していきます。少しでも絵本が好きな人が増えますように。
書籍情報
ことらちゃんの冒険 石井桃子 河出書房新社 2015年